「日本代表よくやった!」
PK戦にもつれ込んで負けた試合を温かく見守る空気が蔓延する中、あえてリスクをとって勝負をしている人がいました。ひとりは中田英寿氏です。「日本代表は力を100%出し切っていない」とし、もっとサイドから攻撃を仕掛けていれば得点できた、力は日本の方が上だったと発言しました。PK敗戦後のセンチメンタルな気分に冷水を浴びせるような中田氏の発言。その分かりにくい語り口からは、何を意図しているのか不明でしたが。
確かに見ていて力が上だったかどうか、ボールを回されて押し込まれている時間の長さを考えれば、決してそうは言えないと思いますが、もう少しリスクを冒して攻めれば先制点を取れたのではないかという見方には賛成です。もっともDFラインを上げてポゼションを高めようとする予選のスタイルのことを指すのではありません。カウンター狙いでいいのですが、勝負どころ(前半20分あたり)でカウンターを恐れずもっと厚みのある攻撃ができなかったのかな、というのはありました。
もうひとりはライターの宇都宮徹壱氏。あくまで結果論としながらも「岡田監督、3つのさい配ミス」として(1)交代のタイミングの遅さ(2)攻撃のオプションの少なさ(3)PKキッカーの選出、を取り上げて、「延長戦を視野に入れながらの判断であった」が後半36分の中村憲剛の投入が遅かった、「攻撃のオプションが著しく欠如」しているにもかかわらず、FW陣の序列と1トップへのこだわりから森本を一度起用しなかった、試合で疲弊していた駒野をPKのキッカーに起用したことをその理由としていました。
個人的な意見としては、(1)中村憲剛選手の投入後攻撃が活性化したのは、相手のプレスがかからなくなった時間帯であったからで、序盤に起用していたらどうであったかは疑問。しかも後半36分以降延長後半終了まで、中村憲剛選手には多くの時間がありましたが決定的な仕事をしたシーンは多くありませんでした。(2)攻撃のオプションが少ないのは、攻撃の枚数が少なくポストになるFWがいない、森本にしても岡崎の代役に過ぎないのではないでしょうか。(3)W杯本番でのPK戦は未体験ゾーンであり、駒野選手を起用せず「PKにも抵抗がなさそうな」中村憲剛選手を使った場合の結果の違いは知る由もありません。そうではなく、敗因はもっと日本のリズムになった時間帯に押し上げて、先制点を取るんだという姿勢を見せるべきだったことではないでしょうか。もちろんカウンターで失点する恐れもありましたけど、そこが勝負というものでしょう。そのあたりのことは6ヶ月前のインタビューからもわかります。選手はそれができませんでした。
とはいえ生暖かい空気が流れる中、あえて「さい配ミス」と断言する勇気は讃えたいと思います。よくがんばった、次に生かそう、みたいな話はサポーターがブログでするたぐいのも。専業ライターたるもの試合を振り返って、良かったところ、悪かったところを取り上げる勇気を持たなければなりません。どちらかというと紀行文に冴えを見せる宇都宮徹壱氏がこうした記事を書いたのには、専業ライターとしての矜持があったのかもしれません。
一方セルジオ越後氏はツイッターにおいて
「残念だったけれど、これが日本の力。守ることはできるけど、攻めはだめ。120分間守りきったという感じだった。明らかに力はパラグアイの方が上だった。川島のファインプレーがなければ、負けてたよ」
と一見厳しく見える発言をしています。しかしよく読んでみると、じゃあ、あの試合、具体的にどうすれば良かったのか?何も書いてありません。あとで新聞だけに発表するのかもしれませんが、そこを言わないと評論家の値打ちがありません。辛口コラムと銘打ちながら試合の感想、印象を述べただけで終っては素人と変わりないじゃないですか。
デンマーク戦後のコラムでも「強豪国に対しても自分たちから攻撃をしかけ、ラインを押し上げ、個々の力を生かせるようになるには、まだまだ足りないものが多い」というなら、個の力を伸ばすためにブラジル人監督を起用せよとか、背を高くするために牛乳を2リットル飲めとか、具体的な提言を聞かせてほしいところです。「足りないところは何だったか、これからどうすればいいか、それを考えていかないと進歩はない」って、そんなことは誰でも分かっているわけで、それをハッキリさせるのが評論家の仕事なのですから。
2006年のワールドカップドイツ大会と異なるのは、ツイッターなどソーシャルメディアがますます大きな力を持つようになり、個人の情報発信が非常に活発になっていることです。試合の感想やつぶやきはそっちの方が圧倒的に面白い。プロのライターや評論家はアドバンテージである情報収集力を駆使して独自に分析し、具体的な自分の考え、意見として臆せず堂々と述べる姿勢が求められているのではないでしょうか。それは日本サッカージャーナリズムにとっても良いことだと思います。
